INTERVIEW

出口 隆

DEGUCHI TAKASHI

中部国際医療センター 病院長

一生懸命やりなさい

そういう人は

誰かが必ず助けてくれます

一生懸命やりなさい

そういう人は

誰かが必ず助けてくれます

これから研修医となって医者の道を進む人たちにとって、なにがいちばん大切になってくるでしょうか?

今まで医学部で何をやってきたかというと、病気の勉強をして知識をためこんできたわけだけど、それが今度は研修を開始し、人を診るっていうことになる。そうするとコミュニケーションがとれないといけないですね。明るくて元気な子でないと、患者さんも「こいつは何や?」ってなってしまいますから、まずはそこかなと私は思うんです。
要は医者としての資質が大事なのですが、どういうことかというと、コミュニケーションスキル、十分な知識、そして患者さんの立場に立てる気持ち、っていうことですね。
今だとそこからさらにチーム医療が叫ばれているので、協調性があって、いずれはチームの中でも十分リーダーシップを発揮できる人になってほしいなと思ってます。

つまり中部国際医療センターでは、そうしたコミュニケーション力を育てる機会がしっかりと提供されるということでしょうか?

もちろん日常の中で患者さんと接していくわけだし、看護師や指導医たちと接していかないといけないわけだから、毎日が訓練のようなものです。その中でも医者としての態度とか言葉遣いっていうのは、指導医から指導が入る。
それと、新しい研修医が入ってくると私がよく強調していることが3つあるんです。
一つが、論理的な思考を持たないといけないということ。直感的な思い込みで「こうだ」といって治療方針を決めたりするととんでもないことになるので、ロジカルに物事を考えられるかどうかというのは、医者にとってとても大事なことなんです。
もう一つは、この研修の1〜2年のあいだに医者としてのクセみたいなものをきっちりつけておくこと。どういうクセかっていうと、当然のことですが患者さんのところに毎日顔を出すとかね。それから診察の時に「こういう病気だから今日は身体所見は取らなくてもいいや」ってならないこと。「基本的なルーティンワーク、やるべきことをやるっていうことが苦にならないようクセをつけなさい」っていうことですね。
あと一つは、病院の中を一人で動いてるわけじゃないから、チームの一員として協調性とチームワークをもってやること。この3つはいつも言うことですね。

医者としてのベースを研修期間中に方向付けるわけですね。
ところで病院長が若い頃は、今とはずいぶん研修のあり方も違ったのでしょうか?

我々のときって、まだ研修指導っていうものがはっきりとしたかたちでなくて、自分の行きたい科に直接入局するというふうでしたね。私の場合だと泌尿器科の医局に直接入った。そこで指導医のもと泌尿器科のプログラムを最初から開始するっていうかたちでしたね。だから例えば内科的なことや外科的なことは自分で勉強するしかなかったわけです。
ただ私の場合、いっとき内科の先生もいるセンターに勤務したことがあって。内科の先生たちと同じような仕事をしていた時期もありその経験はすごく役に立ったので、今の若い人たちが、最初から一つの科ところにいかないで、いろんな科を回っていろんな経験ができるっていうのは、いいことだと思います。
…まあでも40年も前の話だからね、そんな今みたいに優しい話ではなかったので(笑)。厳しく育てられたと思います。

40年前と比べて病院の世界も随分変わってきたと思います。今後はどう変化していくのか? これからの時代、医師になろうとする人たちにとって大切になってくることといえば、どんなことがありますでしょうか?

まず、働き方改革。何時間働いたら休もう、っていうのがありますよね。
我々が育ってきた時代の感覚からすると、「そんなことがないのは覚悟した上で医者になった」っていう前提のようなものがあったわけです。当直明けであろうと手術に入ってたし。それから若い時には、ある意味何でも経験したいなっていうので病棟に用もないのにいて、救急を待って残ってたり。若い医者はみんな残ってた(笑)、10時、11時ごろまで平気に。
でも今は、医者であると同時に労働者であって、自分たちの労働環境は守られなきゃいけない。そう思ってる若い人たちも多いと思います。
昔のような精神論だけでこの問題を片付けるっていうわけにはいかなくなってきたし、その部分は尊重してあげないといけない。ただそうはいっても医療っていうものが、「時間が来たらそれでお終い」っていうようなものでもないわけです。医学部に行って医者になろうとしている人たちは理解していると思うんだけど、その自覚だけはやはり持っていてほしいなと思います。
若い人たちにもう一つ私がよく言うことがあって、「みなさん、一生懸命やりなさいね」って。一生懸命になるといいことがいくつかあって、その一つは好きになって楽しくなる、っていうのがあるのね。

「好きだから一生懸命やる」というよりは、「一生懸命やるから好きになる」っていうことですね?

そうそう。
そして、一生懸命やってる人は誰かが必ず助けてくれる。これがとても大事なことです。
あと今後の変化ということだと、患者はこれから何年かは増えるんだけど、そのあとは増えない。そしてこれから何年かは増えるといっても、高齢者が増えるわけです。
私は、専門医を目指す人たちとともに、柔軟にそうした高齢者を診ていくっていう方向を目指す人たちも出てきてほしいなあって思ってます。だから今度できる新しい病院では総合診療科みたいなところも力を入れて、そうした方向に興味をもってくれる若い人たちがいるといいなあと思ってます。

最後に、若い医師に何かエールやメッセージをいただけまでしょうか?

医者になって研修医になりました、研修終わりました。それだけだと、ちょっと物足りないよね。
「もう一歩何かできるやろ、君ら? もう一歩でも二歩でもいいから、自分の中でやりたいこととか志みたいなものをきっちり持って、それに向かって努力するっていうことをやったらどう?」って。

その志っていうものは、どうしたら育つとお考えでしょうか?

さっきの話で、一生懸命やるっていうことじゃないかな。
医者って毎日やってたら、「こんなことがまだわかってないのか…」と思わされる場面、いっぱいあるんですよ。
今やいろんなお薬があって、いろんな医療器具があって、「医学っていうのはここまで進んで何でも解決してるよね」って思うかもしれないけど、現場でやってみたら、想定外のいろんなことが起こるわけで。それに対して「これ、何なの?」っていう疑問がどんどん出てくるわけで。
そういうのを見つけて興味を持てば、「これを解決してやろう」とかね。手術の時にうまくいかなかったら「次までに絶対これを巧くなってやろう」とか、「それについては日本で一番になってやろう」とか。
そうやって自分でどんどん目標とハードルをあげていく。
我々病院はそういう人たちの志をサポートしますから、どんどんやりたいことを主張してやってもらいたいですね。

今日はありがとうございました。

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出口 隆

DEGUCHI TAKASHI

中部国際医療センター 病院長

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