乳腺外科/
乳癌治療・乳房再建センター
乳腺外科/乳癌治療・乳房再建センター
当科は2009年の開設以後、乳癌手術件数が1,000例を越えております。治療に関しては、高度画像診断システムとがんゲノム診断を用いて、患者様一人ひとりに合わせた治療選択を行っています。手術は根治性を高めた乳房手術とセンチネルリンパ節生検を中心とした低侵襲手術を行なっており、術前・術後の薬物療法はガイドラインに基づいた治療を行なっています。また、当科では当初から形成外科と協力して乳房再建術に積極的に取り組んでおり、美容にも配慮した患者様の希望に沿った治療を行なっています。
医師紹介
乳がん検診
早期乳癌とはしこりの大きさが触診上2cm以下、転移を思わせる腋窩リンパ節を触れない、遠隔転移を認めない状態を言います。乳がん早期発見のメリットは10年生存率が高くなる、乳房を残せる場合が多い(温存手術)、生活の質を落とさずにすむ、経済的負担を抑えるられるなどが挙げられますので乳がん検診が大切です。
乳がんの検査
受診されますと視触診とマンモグラフィー、超音波検査を行います。さらに必要に応じてMRI検査や乳房専用PET診断装置(エルマンモ)による検査も行います。最終的な診断は組織診断(マンモトーム生検)で行います。
エルマンモ治療
全身化学療法は通院治療センターにて落ち着いて行える環境です。最近では手術可能な症例でも患者様が乳房温存手術を希望される場合や、病理学的完全奏功が期待される症例に対しては術前化学療法を積極的に行っています。
手術治療
腋窩リンパ節診断は常勤病理医による術中迅速病理診断によるセンチネルリンパ節生検を行います。乳腺の切除は基本的に乳房温存手術(部分切除術)と乳房切除術(全摘術)に分かれますが、当院では10年以上前から形成外科と協力して乳房再建術に積極的に取り組んできました。
経皮的ラジオ波焼灼療法(RFA)
経皮的ラジオ波焼灼療法(RFA)は、2023年12月1日に保険適応となった新たな早期乳癌に対する手術方法の一つです。主な適応としては、腫瘍径が1.5㎝以下で明らかなリンパ節転移および遠隔転移がない症例となります。この治療の最大の特徴は、乳房を切らずに治療する低侵襲であるという点です。
当院は、岐阜県内でRFAが施行できる数少ない施設の一つです。
転移再発乳癌の治療
遠隔転移が認められた場合、全身にがん細胞が潜んでいる可能性があるため、薬物療法(化学療法、ホルモン療法、抗HER2療法)を行うことが基本であり通常手術は行いません。
当院ではがんゲノム医療連携病院としてがんの原因となった遺伝子変異を明らかにし、その変異に対して適切な薬物投与を行うことで症状緩和や延命治療に努めています。
再建について
当センターでは一次再建・二次再建のどちらの手術も行っています。現在、人工物(シリコンインプラント)による乳房再建のみとなります。また、他院で既にエキスパンダー挿入の手術を受けられた患者様の受け入れも行っています。
3D画像撮影
手術後の状態のイメージが「見える」
画像撮影装置(ベクトラ)
乳癌で乳房を切除しなければならなくなったとき、乳房再建という選択肢を前にして、多くの患者様が大変な逡巡をされています。その最大の理由は、乳房を全摘した後の状態や乳房再建を選択した場合の自身の姿を、前もって具体的にイメージすることが難しいことにあると思われます。
そんな乳房再建という選択肢を前にした患者様の迷い軽減するべく導入したのが『ベクトラ』。乳房全摘後や乳房再建後の状態を手術前に3D画像でイメージ化することで、乳房摘出への不安をやわらげます。
3D画像撮影装置の主な機能
乳房形態の自動計測
撮影した乳房の形態を自動的に計測することが可能です。乳房の幅・乳頭間の距離・鎖骨切痕と乳頭の距離・乳房のボリューム・乳房の突出度などが瞬時に計測されます。これらのデータは再建計画上の貴重な情報となるだけでなく、乳房再建の質向上のための重要な参考資料となります。
乳房全摘のシミュレーション
乳房全摘の状態をコンピュータの画面上で作成することが可能です。画面上における乳頭乳輪の部分に色を被せて隠してしまう加工をすることで、全摘後に非常に近い状態を、具体的なイメージ画像として見てみることができます。ただし、画面上のイメージ画像には、手術により実際に入る傷が入らないため、実際よりもきれいにみえてしまうということがありますのでご了承ください。
インプラント挿入のシミュレーション
人工物による乳房再建を選択した場合(シリコンインプラントを挿入した場合)に、どのような仕上がり具合になるかというシミュレーションが可能です。シミュレーションできるインプラントとして、世界各国の7社のラインナップのデータが装置にインプットされており、好きなインプラントを指定してシミュレーションしてみることができます。日本では現在のところAllergan社のものしか保険が適用されないため、実際にはAllergan社のインプラントでしかシミュレーションすることはありませんが、将来的には保険適用となるインプラント会社が増えるでしょうから、多様なインプラントでシミュレーションできる機能が搭載されていることは有益だと考えています。
撮影の流れ
機械の前に立つと、3方向からフラッシュがたかれ、撮影が行われます。撮影自体はほんの一瞬で終了します。撮影を担当するのは、普段マンモグラフィの撮影や乳腺のエコーを担当している女性の放射線技師ですので、安心して撮影に臨むことができます。撮影から僅か1分ほどで、3D画像がコンピュータ上で合成されます。
3D画像撮影装置を用いたシミュレーションは、質の高い乳房再建を実現するために当院が行っているサービスの一環で費用は無料です。費用を気にすることなく、自分自身の手術後イメージをぜひシミュレーションしてみて頂きたいと思っています。
セカンドオピニオンの患者様は自費で5,500円(税込)頂きます。
スタッフについて
当院では、センター所属の専任看護師が相談員として常勤しております。一次再建の患者様は診断を受けた時点からサポートを始めさせて頂きます。乳がん治療のことから乳房再建のことまで、患者様のあらゆる相談をお受けすると共に、患者様と医師の意思疎通がスムーズにいくようお手伝い致します。また二次再建を希望して来院された患者様にも、ご希望に応じて同様に専任看護師が相談をお受けいたします。
よくあるご質問
- どのような人が乳房再建を受けられるのでしょうか?
どなたでも再建手術は可能です。再建に年齢は関係ありません。60歳以上の方でも再建手術を受けられる方は珍しくありません。
これから治療を受けられる方の場合
乳房の切除を一部にするか全部にするか迷っている方の場合、再建の話を聞くことが術式を決める助けになることがあります。乳房温存手術 (部分切除) の予定でも、残った乳房の変形が予想される場合は再建を行うことがありますが、切除断端が陽性だった場合や局所再発が起こった場合のリスクを御理解頂く必要があります。
乳房温存手術では術後の放射線治療が必要ですが、乳房切除術では一部の例外を除いて放射線治療は不要です。そして乳腺を残さないため、局所再発の確率も低くなります(ただし生命予後には差がないといわれています)。よって乳房切除術プラス再建も乳房温存手術に劣らないメリットを持った術式なのです。既に乳房の切除術を受けられた方の場合
治療後数年たっていても再建は可能です。次の項で述べる「二次再建」に相当します。
- いつ再建するのですか?
同時再建と二次再建があります。
同時再建 (即時再建、一期再建、一次再建も同じ意味です)
乳がんを切除する手術に引き続いて乳房のふくらみの再建を行う方法です。利点としては乳房の喪失感をあまり感じないですむこと、手術の回数が少なくてすむことが挙げられます。欠点としては、乳がんの治療のことと再建のことを一度に考えて理解しなければならないことが挙げられます。
二次再建 (二期再建も同じ意味です)
乳がんの手術および化学療法などの補助療法が一段落ついたところで再建を行う方法です。利点は再建手術の内容についてじっくり考える時間をとれることです。また、乳房のない状態を経験するので、再建した乳房に対する満足感もやや高い傾向があります。欠点としては再建までは乳房を失った状態で暮らさなくてはならないこと、手術の回数が一回多くなることが挙げられます 。
- どんな方法があるのでしょうか?
大きく分けて2つの方法があります。
- 人工乳房を用いる方法
- 自分の皮膚・筋肉
(広背筋皮弁,腹直筋皮弁など)を用いる方法
どの方法を選択するかについては、あなたが受ける(受けた)乳房切除術の種類、皮膚の状態、反対側の乳房の大きさや形態、背部や腹部の手術痕の有無、また将来妊娠・出産を希望されるか否か、などが参考になります。方法によって体への負担や入院期間、費用なども異なってきますので、それぞれの方法の利点・欠点を十分御理解頂いた上で患者様御自身に選択して頂きます。
- 乳首も作れるのですか?
乳首の再建も可能です。再建手術は、乳房のふくらみの再建が完了した後に行うのが一般的です。反対側からの移植や植皮、入れ墨など、色々な方法があります。
「家族や友人と温泉旅行に行きたい」「胸の開いた洋服を着たい」「パットがずれて不快」など、乳房再建を希望される患者様の理由は色々ですが、「希望した時にいつでも再建が出来る」、そのことを知っているだけで心が軽くなります。
当院では女性の形成外科専門医がゆっくり時間をかけて御説明致します。これから乳がんの治療を受けられる方も、乳がんの治療は随分以前に終了し、精神的なゆとりが 出来て乳房再建の話を聞いてみたいという方も、是非一度ご相談ください。
がん難民を出さない診療体制
- 当科では原則、予約診療はおこなっておりません。
- 来院されたその日のうちに診察させていただいております(但し、待ち時間はいただきます)。
- 再発や転移がん、末期がんであってもお断りしません。
- ガイドラインやエビデンス重視の診療体制を採っておりますが、患者様の希望に沿った治療も考慮します。
がんゲノムに基づいた診療
当院で治療(手術、薬物)を受けられる患者様は少ないご負担で原因となっている遺伝子変異診断を受けられ、エビデンスに基づいたがん治療が可能です。またがんゲノム連携病院として他の病院で治療を受けておられる患者様の診断もお手伝いいたします(NCCオンコパネルやF-1検査)。
診断機器
全国に先駆けて2015年に導入した乳房専用PET診断装置(エルマンモ)は痛みや苦痛の少ない診断機器です。糖代謝を応用した装置でがんのリンパ節転移や遠隔臓器転移の診断に用いていますが、乳がんの場合は術式の決定にも有用です。
ブレストチーム
昨今、がん診療の現場ではチーム医療の重要性が認識されています。当院では治療の様々な局面でブレストチーム(乳がんにおけるチーム医療)が機能しています。乳腺外科医、放射線科医、病理診断医、口腔外科医、麻酔科医、精神腫瘍科医、内科医などのがん関連医師の他に、がん専門薬剤師、各種認定看護師、作業療法士、放射線技師、栄養士、事務職を交えたグループ医療が良好に機能しております。
多くのスタッフが関与しますので医療ミスの軽減効果が期待できます。また患者様にとっては相談する相手が多い点も安心材料です。
診療実績
2019 | 2020 | 2021 | 2022 | 2023 | |
---|---|---|---|---|---|
総手術件数 | 144 | 116 | 87 | 120 | 167 |
乳癌手術 | 113 | 90 | 65 | 102 | 138 |
良性、他 | 31 | 26 | 22 | 18 | 29 |
2019 | 2020 | 2021 | 2022 | 2023 | |
---|---|---|---|---|---|
部分切除 | 49 | 37 | 23 | 45 | 44 |
全摘術 | 58 | 53 | 42 | 57 | 94 |
2019 | 2020 | 2021 | 2022 | 2023 | |
---|---|---|---|---|---|
原発乳癌手術件数 | 113 | 90 | 65 | 103 | 139 |